教会報「聖鐘」巻頭言(2022年12月)


ベツレヘムの星

 

牧師 司祭 バルナバ 大野 清夫

 

アガサ・クリスティーという英国の作家に『ベツレヘムの星』という短編小説があります。それはこのようなものです。

 

天使は「恐れることはないマリア、私はあなたにその子の将来の姿を見せに来たのです。」と語り、翼を翻してマリアに幼子の将来を見せました。成長した幼子の姿は苦しみにあふれていました。それは、十字架に架けられる前に必死に祈る我が子の姿だったのです。マリアはその姿を目にし、胸がはちきれんばかりの思いになりました。すると天使は、また違う場面をマリアに見せました。それは我が子が十字架に架けられる場面でした。

 

マリアは生まれたばかりの、すやすやと幸せそうに寝息を立てるわが子が、壮絶な最期を迎えることを目撃したのです。マリアはこの事実に打ちのめされ、自分の目にしたことは真実なのだろうかと疑いました。

 

マリアが衝撃を受け、苦しみ悲しんでいる姿を見て、天使は声をかけました。

「マリア、私が今見せた光景は将来に起こる真実の姿です。この子は将来、人々から罵られつつ、十字架の上で死ぬことになるのです。ですが、もしあなたが願うならば、今この命を終わらせ、苦しみ悩むことなく生涯を終わらせてあげましょう。マリアどうしますか。」

 

マリアは天使の言葉に悩みました。もし本当にそのような生涯を送るのならば、天使の言葉の通り、今ここで生涯を終えた方が幸せなのかもしれない、とマリアの心はぐらついたのです。

 

ですがマリアはあることを思い出しました。主イエスの姿は悲惨なものですが、一人祈る主イエスの眼差しは慈しみに満ちたものだったことを。マリアは確信して天使にこう言いました。

「私にはこの子の命を終わらせることは出来ません。神様から授かったこの子の命は、神様のものです。」

 

このマリアの言葉を聞いて天使は去って行きました。この天使の正体は悪魔だったのです。悪魔は生まれたばかりの主イエスの命を奪おうとマリアを試み、その試みに失敗したのです。マリアの試みに失敗したサタンは、イエスに対して夜空に光を放ちました。その光が、はるか遠くにいた人々の目にとまりました。その人々が東方の占星術の学者達だったのです。東方の学者達は、その光に導かれて幼子イエスのもとにたどり着きました。神様に逆らうサタンが異邦人の光となり、救いを招き、救い主を証ししたのです。